2012年5月31日木曜日

映画『裏切りのサーカス』感想


某所にて4/29公開

 昨夜予定通り観てきました。原作読み終えててホント良かった(笑)。しかも、邦訳と相性が合わない…とか言いながら、ちまちましつこく文章を読み返しながら読んだのが、結果として良かったのかもしれないとすら思いました。


 ちなみに原作は先月の発売日に買って読み始め、読了したのが今月25日とほぼまる1ヶ月掛かりました。要因は、本来なら読書時間として充当できる通勤車内、夕飯後から就寝前、休日をすべてBBC『SHERLOCK』に費やしてたからです。本末転倒とはこのことだよ!とか思いつつ、使える昼休みにちまちま 読んでた次第。しかも、邦訳との相性がホントに悪かったせいか、何度「この日本語の意味が分からない…。前後関係や情景が見えない…。もしかして原書とか旧訳読んだほうが分かるのか???」とか思いつつ、行きつ戻りつしてたんです。それでも投げ出さなかったのは、ベネディクトとゲイリー・オールドマンへの愛故!そして、やっぱり小説が面白かったから他なりません。

 映画でベネディクト・カンバーバッチ演じるピーター・ギラムが結構重要な役回りなので、これは絶対読まなきゃいけない!読まなきゃ後悔する!ベ ネディクトの顔と声を思いだしながら読むんだ!とかとか出来たのがホント幸いでした(笑)。ピーター・ギラムが端役だったりしたら速攻止めてたかもとすら 思うくらい、そこに助けられました。
 そして、やっぱりゲイリー・オールドマン演じるジョージ・スマイリーが、非常に興味深い人物だったことも幸いしました。饒舌で無いがゆえに、彼が語る言葉や情景に憂いや諦観といった重さを感じ最後まで「事件」に興味を失わなかったのだと感じてます。
 しかしながら、後半まで幹部4人中2人は区別がつきませんでした(苦笑)。まぁ怒涛の最終章付近で漸く人物像が抑えられたので、再読時にはなん とかなるかと思ってます。けど、愛称と苗字と暗号とかで呼ばれるからホントに誰が誰のこと話してるのかわからないことが多かった(涙)。私に読解力&理解力がないのが悪いんですが…。

 そして本題の映画。

 あの原作をここまでよくもまぁこの時間にまとめたものだ!と真剣感心しました。特に、ジム・プリドーが撃たれる場面。原作とはかなり異なる展開なんですが、原作が描いた緊張感や緊迫感を十分に「映像化」してたと思います。
 その緊張感・緊迫感はその一場面だけでなく映画全体に漂ってた気がします。派手な演出は殆ど無くほぼ会話だけで進んでるにも関わらず、見てる間 中心臓バクバクして手に汗を握ってました。それぞれの表情とか視線とか身体の微妙な動き、声の震えなんかで表現される緊張感たるや!!
 そして、それぞれの反応がそれぞれに与える影響なんかもあるだろうし、1回観ただけでは全員の動きや醸しだす雰囲気は抑えられないなぁとすら思います。

 原作を読んでたから細かい部分が補完できたと思います。そうじゃなきゃ、なんで?とかきっと思ってしまってたかも。そう言った意味では、映画としての評価は難しいのかもしれないかなと。正直、ものすごく観る人を選ぶ映画じゃないかと。原作のあの雰囲気や世界、情景、表現が好きな人とか、舞台が好 きな人とかは絶対面白いと感じる筈。けど、"007"や"Mission Impossible"が好きな人や、スッキリした解決や後味を求める人は物足りないんじゃないかと。

 ちなみに一緒に行った原作未読な相方は、「もぐらを突き止める過程があれではな…。(ヨメから聞いた)原作の過程やったら納得やけど」とやっぱりスッキリしなかったようですし。
 とは言え、私は非常に好きな映画でした。好きな役者だらけなのでフィルター掛かってるかもしれないですが(苦笑)。もう一回映画館で観たいし、DVDを買ってけっこう観るんじゃないのかと予想してます。

 以下まとまりのない雑感を箇条書きで。 


 

・原作で一番好きだったコニー・サックスの場面。ちょっと肩透かしだったかも(^^;;。原作でのコニーが声色を変えて(少女だったり優秀な調査 員だったり母親だったり)過去を語るのが好きだったのですが…。時間があまり無かったので仕方ないとは思いますが、もう少し見たかったなぁと。ただ、コニー・サックスが過去と現在の境でゆらゆら漂ってる危うい雰囲気とか、「サーカス」という場そのものを愛してたのがあの短時間で伝わってはきました。コ ニー・サックス役の方もホントに上手くて、もっと見たかった!!と。あの役者さんだったら原作でのあの場面を的確に見せてくれたろうに!!とか思うと…。
・ゲイリー・オールドマンがとにかくやっぱり凄いんです。常に観察者たる存在なのに、作品全体を体現してる雰囲気がありました。過去だけでなく現在や未来にすら憂いているのに、組織や国への忠誠心が失われない故の鬱屈。何にもまして国を最優先する諜報部員としての矜持、それを期せずして失われた哀しみ。 信頼と疑念を同時に扱い、利益に応じてどちらかをあっさり切り捨てるプロとしての有り様。それら全てが言葉ではなく、表情や視線、体の動きだけで表現され る凄さってば!!!ゲイリー・オールドマンを観るためだけに、DVD買っても損は無いてか満足します。
・コリン・ファースの色っぽさは好みでした(笑)。誰もが気を許す色男な雰囲気が素敵だった。しかし、やっぱり時間が無かったのかもしれないです。 原作読んでたから補完できたけれど、やっぱり映画として考えた場合あれは無茶だよなぁと感じました。けど、コリン・ファースは良かった!!
・リッキー・ター役のトム・ハイディ氏。初めて拝見しましたが、無精髭がある方が好みでした(笑)。で、事前に中の人ネタを読んだせいで、ワンコに思えて仕方なかったのは内緒です。ホントごめんなさい。
・肝になるウィッチクラフト作戦については、やっぱり映画では時間的に難しかったのかもしれない。ですが、もう少し何とか説明なりできなかったの かと思います。あれがあってこそ、スマイリーがもぐらを探し出せたと思うので。映画内での気付くきっかけがちょっと弱かったかなぁと思わなくもなかった。 ただ、ウィッチクラフト作戦をきちんと描くとかなり冗長になることも否めないし、映画としてある意味最適な脚色だったのだとも思う。
・パーティーの場面は、あれだけ人がいるにも関わらず其々の関係性が視線や最低限の台詞だけで見えたのがホント凄いです。説明台詞や動きなんて無いのに、きちんと演じて必要な画があれば伝わるんだなぁと改めて感じました。
・鑑賞後、水川青話さんの「Tinker Tailor Soldier Spy、原作とドラマ版と映画版内で、過去BBCでドラマ化された際にカーラを艦長が演じておられたというのを知り脳内が大騒ぎでした。艦長があの「小柄で司祭のような風貌」なロシアの諜報部員を演じておれらなんて!!!何ていう何ていう…(絶句)。これだけで、BBC版のDVD欲しい!と思いましたです。てか、なんの罠?!ねぇ一体何の罠 に私はハマったの!?とかどうしようもなく動揺しました。自縄自縛ってこのことなのかな…。ちっさい世界をウロウロしすぎてるのかな…。けど、艦長があの カーラをって(堂々巡り)
 ピーター・ギラムについては、滾り過ぎて長くなりそうなので別項設けます(笑)
 


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某所での追記:5/2 >
 2回目視聴後の雑感。 
相方が仕事な本日、2回度目の鑑賞してきました。指輪以来かも複数回鑑賞(^^;;。
 
・やっぱり初回は、話を追うだけで精一杯だったんだなぁと改めて感じました。2回目な今日は、台詞の外にあるやり取り(視線、表情等)が薄っすら見えて、それぞれの思惑や感情、関係性が立体的になった気がします。あと、やっぱり細かい部分にも少し気付けたのかもしれない。
・コニー・サックスの場面、映画も好きかもしれません。過去を愛しみ今から目をそらすコニー・サックス。過去を愛しみながらも過去の遺産に振り回され、今も観察し続けるジョージ・スマイリーが少しだけ交わる。そんな優しくも残酷さが感じられた気がします。
・ジム・プリドーの背負ってるモノと喪ったモノの大きさを改めて感じました。それ故、ビル・ローチ君との場面が非常に惜しかった。原作で割合紙幅を割かれてるので、なんとか脳内補完できましたが。そうでなければ、唐突に感じただろうなとか思ったりです。
・やっぱりゲイリー・オールドマンが只管良いんです。これは何回見ても変わらない気がする。
・ソルジャーとプアマンの顔と暗号名と本名が漸く一致しました(遅くてすみません)。
他にも色々あるはずなのですが、DVD視聴後に…
<某所での追記:5/4>

 上で大騒ぎしてる、BBCドラマ版。YouTubeで見つけました!!流石に全7話をYouTubeで見るのは厳しいので、カーラな艦長=Patrick Stewartが登場する場面(デリーでの尋問)だけ視聴いたしました。
 

 凄く私好みな艦長=Patrick Stewart過ぎて言葉がこざいません。捕虜なため髭面で両手足が拘束されてる。そして、無言で身動ぎ一つせずスマイリーの尋問(勧誘)を受ける。なの に、原作で読んだスマイリーとカーラ過ぎて…。この二人巧っ、な当然かつありきたりな感想しか出てきませんでした。
 この場面のスマイリーは、唯一観察者でなくなるんです。尋問してるはずが「されてる」と感じるという大切な、そして重い場面。スマイリー役のアレック・ギネスとの間に流れる空気とか、立場の微妙な変化とかが見事過ぎて。凄く良い物見た!な感じです。
 やっぱり何かの「罠」なんでしょうか、これって(苦笑)。