2008年6月15日日曜日

『ザ・マジックアワー =The Magic Hour=』ネタバレ気味な感想

 友人に「面白かった?」と聞かれれば、「面白かったよ!」と即答できる映画でした。三谷作品を見続けている人にとっては小さなツボがあちこちにあって楽しいし、三谷作品にあまり触れてない人にとっても娯楽作として十分に楽しめる作品だと思います。

 出演者は若干名除いて見事でした!
 主演の佐藤浩市、西田敏行の両氏は素晴らしいの一言です。特に、西田敏行は格好いいしお茶目だし素敵だし渋いし楽しい!なんて素敵な役者さんなんだ!と嬉しくなってしまう程です(『西遊記』猪八戒から大好きですよ)。また、三谷作品におなじみの方達もちょっとした場面で出てるので、ちょっとしたクイズみたいでした(笑)
 
 出演者に関する細かいツボ
 ・小日向さん、おとぼけキャラ全開で素敵です。テンポとか細かい表現は流石に素晴らしくて、小日向さんの場面で何度くすぐられた事か!特に最後の場面は小日向さんじゃなきゃ出来ない格好だわ...と可笑しさUPでした。
 ・浅野和之さんは、もしかしたら一番美味しい役だったかも。どんな役をされても「格好良い」と思っちゃうのは、浅野さんだからなんだろうな〜。
 ・深津絵里さんは、サバサバした悪女で魅力たっぷりでした。最後の西田さんとの場面は、凛々しくて色っぽいちょっと可愛い深津さんの魅力一杯で素敵な場面だったと思います。
 ・伊吹吾郎さん!助さん角さんだっ、と明後日の方向な喜びを感じながらも、身のこなしとか表情とか声が渋いわ巧いわで出て来られる度、釘付けになってしまってました。
 ・戸田恵子さんは、徹底的に遊ばれてますね〜。あの設定は一体何なんだ?と非常に気になりましたし、その設定が今ひとつ生かされてなかった様に感じつつも、戸田さんだしまぁ良いか☆と、思えるようになった私は三谷好きだと再認識しました。
 ・寺島進さん、と佐藤浩市氏が並ぶとごく普通の「アクション(任侠)映画」にしか見えないのが凄いというか、なんとも怖い画だとしみじみ。なのに、台詞がとことんトンマで可笑しいのは、両氏が巧いからなんですよね〜。
 ・東京サンシャインボーイズから三人も!中でも私が一番反応したのは、映画皆勤賞で今回も出てるぞ梶原善さん(笑)。
 ・映画皆勤賞といえば、近藤芳正さんもやっぱり出て下さってました(笑)。浅野さんとの絡みが無くて、少し残念ではありましたが(『TRICK3』の鶴亀コンビ)。
 ・鈴木京香さんと谷原章介さんの『カサブランカ』な映画は素敵☆てか、谷章の胡散臭い笑顔をスクリーンで見る事になろうとは!!!と明後日の方向でツボを刺激されまくってました。
 ・その美男美女の後ろで、やたら煩い動きで胡散臭い外国人を如何にもな感じで演じてる寺脇康文さんが、あらゆる意味で素晴らしいですよ(大笑)。
  一瞬しか写らないのに、非常に強烈な印象を残して下さるのは流石煩い動きの寺脇さん!実際、今もって思い出し笑いさせてくれる威力は凄いです(誉めてます)
 ・『カサブランカ』チックな映画、谷章と佐藤浩市氏が入れ替わったらまんま、鴨とお梅さん(『新選組!』)なのになぁ、と。思っていたら、やってくれましたよ三谷幸喜氏は!
 ・中井貴一氏と天海祐希氏は、本当にちょっとの登場でしたがお二人とも格好良かったな〜。特に天海氏は素敵でしたよ!
 ・唐沢寿明氏は、三谷映画では何故こういう嫌な設定が多いんでしょうか(笑)。三谷氏の歪んだ愛情をひしひしと感じました。それを言うなら中井貴一氏も情けない設定が多いよな〜と。
 ・市川亀治郎さんだ!と反応した為に、観賞後母に「何故?」と聞かれ延々説目する事になりました(_;
 ・山本耕史くんが出てくるとは思ってなかったので、非常に驚きました。えっと...副長と鴨の再会って事で宜しいですよね?三谷さん完全に狙ってやってますよね?と明後日な感想を呟いた場面でした。
  ってか、散々っぱら愚痴を零し倒しす山本君と、それを聞き流す佐藤氏ってのが妙に楽しかったです(笑)
 ・香取慎吾くんは、前作の設定まんま引きずってるんかいっと突っ込み入れました。ちゃんとあの人形も持ってたのは、サービスですよね?三谷さん。そして、深津さんを絡ませたのは、フジTV的に美味しかったからなんだろうなと邪推。何せ、猿とお師匠様ですものね〜。
 ・榎木兵衛さんは格好良いな〜と見入っておりました。今作も、素敵な老人俳優さんが存在感たっぷりに出演されてました。こういう部分に映画界を下から支えて来られた方に対する敬愛が伺える様なきがして、「三谷さんのこういう所、好きだな」と再確認した次第です。あと、スタッフさんのお仕事や世界に対する眼差しとかも、きちんと評価して尊敬されてるんなぁと思えてなりません。

 上記に触れなかったメイン役者2名は、彼らが台詞を言う度に何故か醒めてしまう感じになってしまいました。単に私と合わなかっただけで決して、下手な方達では無いと思いますが...。ただ今回初めて、三谷作品は「あまり巧くない役者が演じるとどうしようもなく陳腐になるんだ」と思ったのは事実です。もしかしたら設定上ああいう演技をされていたのかもしれませんが、どうも違和感を感じてしまいました(深津さんのお芝居みは「意図」が見えたので余計かもしれません)。とは言え、芸達者な方達が巧く反応して受けて下さっていらした場面では、それ程違和感はありませんでしたが。

  最後に、私にとって今作は「三谷幸喜の作品(芝居)はこんなモノじゃない」という、なんとも消化不良な感覚が残った作品でした。この感覚を拙い言葉で表現するならば、非常に大味な設定と台詞で「映画」にのめり込めなかったです。
 そう感じた原因としては、舞台の様な緻密さがないのか、設定が取って付けた感じがするのか、台詞が表面的というのか取って付けた感があるからなのか、言葉の積み上げや伏線が徹底されてないからなのか...その辺は不明です。
 恐らく『コンフィダント-絆-」を体験した後だから余計にそう感じたのかも知れませんが、同じ2時間強ならば私は『コンフィダント-絆-』の方が幸せに過ごせました。
 で、娯楽昨としては十分楽しめる今作ですが、コン・ムービーとしたら、本家『STING』の様なハラハラドキドキ感も無ければ、『アフター・スクール』の様に「あぁ騙されたっ!!」という驚きも無かったのも事実です。
 また、これは前作から感じてる事なんですが、三谷幸喜は「舞台」作家&演出家であって、映画脚本&監督(特に大作向)でないかなぁと。
 あと、カメラワークにも若干違和感を感じたかも。勿論、引きで見せる画は「三谷作品らしいなぁ」と好ましく感じてます。が、場面の切り替えにもう少し気を遣って貰えたら嬉しいなぁと初めて感じました。氏の映画では『みんなの家』が一番好きかもしれないと感じてしまった、前作と今作でした。

『アフタースクール』 ネタバレ気味な感想

先月末に出演者と前評判の良さに惹かれて、相方を騙くらかして観に行ってきました。観賞後の二人の感想は、「見て良かったよ!面白かったよ!すっかり騙されたよ!」です(笑)
 
 レビュ等で「騙される」と書かれていたので、結構色々伏線を考えながら、台詞や表所から色々予想しながら見ていましたが、すっかり騙されました。怒濤の様な後半には「えっ...それはそういう意味だったんですか?」と心地よい驚き続き、脚本と映像両方の緻密さに感服した次第です。この作品がDVD化された暁には、絶対買おうと固く固く決意したくらい「面白い」作品でした。

 出演者に惹かれたと書きましたが、惹かれた出演者とは堺雅人氏+佐々木蔵之介氏+田畑智子嬢の三人です。お三方及び他出演者について一言感想を以下に。
 
 堺雅人氏:出演時間こそ少なかったものの、一番可哀想な人(役柄)として強く印象に残りました(笑)。もしかしたら、一番救いが無かったのはこの方じゃないかと思います。
 佐々木蔵之介氏:男前でした(笑)。斜めから世間を眺めてるんだけれども、そうじゃない世界をどこか羨ましがってる様な人物だろうな。この人物の生き方を、陽の当たる方から否定されてしまう最後はどうにも納得できませんでした。
 田畑智子嬢:アヒル口な田畑ちゃんは、本当にやたら可愛かったです!落ちが田畑嬢と堺氏だったのは、とても満足でございました(笑)
 大泉洋氏:実は大泉さんは初体験でしたが、途中こいつがもしかしたら?と思わせるお芝居を拝見して、巧いな〜と思いました。映画の中では一番幸せな人でしたし。
 常磐貴子嬢:最後まで見て漸くそうなのかと、腑に落ちさせてくれる方。この方が始点で終点だったんですよね。しかし、どの場面でも奇麗でしたよ(眼福)

 1回の観賞では漏れてる台詞や画がきっとある筈なので、特典映像目当てにDVDを買って細かく確認してみようと画策中です。

2008年6月9日月曜日

氷室冴子さん逝去 (6/9 若干内容追記)

新聞を読んでいた相方に「氷室冴子 亡くなったらしいよ」と言われ、言葉が出ませんでした。まさかまさかこんなに早くに逝ってしまわれるとは...

 『金の大地銀の海』以降、筆を置かれたかの様に新作が出なかったと思っています(復刊されたクララ等のあとがきくらいかな?)。それがとても不安で、氷室さんなにしてらっしゃるんだろう?お元気なのかな?どんな形でも良いので新作拝読したいなぁと思っていたのですが、まさか...
 (よしながふみの対談集内で萩尾 望都から氷室冴子の名前が出たのが、消息を知った最後でした。あぁお元気なんだと、もの凄く安心したのに...)
 
 小学校高学年で氷室作品と出会って以来、氷室冴子著は手当たり次第に読みあさり、買いあさりました。作中で触れらている東西の名作を読んでみたり、『ざ ちぇんじ』『なんて素敵にジャパネスク』で描かれた平安時代に興味を抱きその時代が好きになったり、私に色々な影響を与えてくれた作家でした。
 また、氷室冴子は私にとって、大切な大好きな作家さんでもありました。この方の作品を読んで色々世界が広がったし、好きな物事がいっぱい増えたし、何より大切なものを一杯もらった作家さんでした。
 私は好きになったらかなりしつこいんですが、氷室冴子に関しても同じ。出会ってからずっっと好きなんですよ。どんな作品をどんな媒体で書かれても絶対追っかけて行こう!と思ってたくらい好きでした(実際どんな出版社から出ても作品集めてました)。

 横に逸れますが、文壇内での評価は媒体の所為もあり低かったのがホント悔しくて悔しくて仕方ありませんでした。贔屓目だとは思いますが、もっと評価されても良かったんじゃないかと。
 古典の換骨奪胎の手腕とか、流麗なのにそれを感じさせない文体の軽やかさとか、キャラクター造詣の巧さとか。大げさに言えば、今評価されてるライトノベル作家の原点とも言える作家さんだと思ってます。(ってか、コバルト黄金期を築いた氷室冴子や久美沙織や新井素子が居なければ、現在のライトノベルっては存在し得なかったんじゃないかと思ったりもしてます)。

 『ジャパネスク』シリーズには大きな影響を受けたと思っています。歴史というモノに興味を持ち、歴史が好きと言えるのはこのシリーズのお陰です。
 シリーズで描かれる平安時代の文化はとても魅力的で、美しい色彩に満ちていました。その後、授業で無味乾燥とした平安時代を学びんだ際も、小説との差(違い)を必死で探してみたり、どう料理しているのかと歴史そのものに益々興味を抱きました。そして、氷室冴子が描いた平安時代の基本は、大きく間違って居ない事に驚きを覚えました(作家の情報処理の腕にも)。
 何より教科書に書かれている奥には、小説に描かれている色彩豊かな美しい世界があったんだと思えた事は私に取っては本当に有益でした。
 
 この方の作品は、少女というものに対して優しくて厳しかった。少女の甘さやずるさを慈しみながらも、少女の弱さやエゴに対しては容赦のなく抉る。けれど、少女達の精神的な成長を描き、何かしらの救いを与えていたと思うんです。
 それが顕著に現れているのが『シンデレラ迷宮』と『シンデレラ ミステリー』ではないかと。利根という自ら作った繭に閉じこもった少女が、彼女が知らずと産み出した悲しみの国で出会う物語の登場人物達。彼女達は本当の物語で演じてた役割で無く、少女の憎しみや悲しみを映し出す人物でした。
 少女と彼女達が出会い語る事で、少女は「自らと向き合い、変わる」事を知り、「成長」する。全体に静かな小説ですが、氷室作品では『ジャパネスク』シリーズと同じ位大切で大好きな作品です。

 氷室作品は今も大好きな大好きな作品です。そして、その作品を生み出された氷室冴子という作家も大好きです。だから、出版社にお願いします。大人が持っていて恥ずかしく無い装釘で、全集出していただきたいと切に願います。

 氷室冴子作品と出会えて心から感謝します。素敵な作品を贈って下さって本当に有り難うございました。
 心よりご冥福をお祈りいたします。