2005年4月18日月曜日

『お父さんの恋』大阪公演

 先週末、待望の『お父さんの恋』行ってきました。座席が一桁列ど真ん中と、珍しくかなり美味しい場所(笑)だったので思う存分堪能して参りました。

 先週見た『デモクラシー』が厳寒の冬だとすれば、『お父さんの恋』はとても柔らかで暖かな春の陽だまりのようなお芝居でした。とは言っても、陽だまりと言っても決して暖かいだけでは無く、時として言葉が胸に静かに突き刺さり、何かがゆっくり沁みこんで来る、そんなお芝居でもありました。そう、まるで舞台の季節に咲き誇っている(舞台に置かれている)桜の様に儚く美しく柔らかい、それでいてどこか一抹の寂さや凛とした何かがありました。

 そして、我父の事を思い出しました。いや、むちゃむちゃ健在なんですが(笑)。一般的に言われてる父との確執とか、反抗とかとかを勿論経験してるので、その時の父の思いはどうだったんだろう、とか思ったりしてなんとも言えず切ない思いをしてみたり。


以下徒然に思った事など。

 しつこいようですが(笑)、一桁列ど真ん中のお席だったので役者さんの表情や細かな口の動きまで確認できたのは、嬉しかったことの一つ。
 大樹と藪先生の将棋場面で堺さんと池田さんが何となく微妙に楽しげな表情で、お二人で何か話しておられたりとか、その後大樹が美樹さんにスリッパで頭を思いっきり叩かれてる時の堺さんの妙に笑いをこらえてる表情とか(恐らく回数が多かったんでしょう/笑)、正樹の車椅子での場面の表情とかがホント見てて嬉しくなりました。
 また、ヤンキー(死語?!)時代の正子姉のぶっ飛びように、素で笑いをこらえてる堺さんや菊池さんの様子には思わず笑みを誘われました。

 堺さん目当てで行ったんですが(笑)、実際は意外と言うか当然なんですが前田吟さんに終始ひきつけらておりました。どこか抜けてて可愛らしくも頑固で懐が深い昔気質の「親父」がたまらなく愛おしく感じたのは、前田さんだからなんじゃないかと。前田さんがあんなに「軽やか」なお芝居をされるとは意外でした。もっと重々しい感じのお芝居をされるとばかり思っていたもので・・・。勿論、押さえる部分はきちんと押さえておられるし、若者達のお芝居をどこか楽しんで見守っておられる雰囲気もあって、本当に「父」といってしまいたくなるくらいの空気を醸し出しておられました。

 で、お目当ての堺さんですが、一言で表現するなら「いや~眼福眼福」です(笑)。
 上でも書いてますが、細かな表情や全身で表現される空気感(正子姉の指輪を眺めてる時の手の動きとかとかとか)をあれだけ堪能できたら十分満足です。
 そして、大樹が持つもどかしさや先が見えるが故の諦観なんかは、同世代だけにどこか判る部分があり、彼の置かれてる(自ら置いた)位置が強ち他人事じゃないよなと思ったり。居場所が無いとか、先が見えてるとか言い訳と言えば言い訳に過ぎないんでしょうが、それでも「先が見える現在」を作ってしまった前の世代(=親)へ苛立ち、その苛立ち故に(ある意味不条理な)怒りを彼らにぶつける、それで更に己を追い込んで「やりたい事がわからなくなる」そんな循環に「私も同じだよな・・・」と思い当たりました。
 また、大樹が正樹に対して「あんたのようになりたくない」と投げつけた言葉を聴いて、なんとも遣り切れない思いを抱きました。それは私自身が両親に対してかつて思っていた「言葉」だったから。そして、そう思いながらも大樹と同様「何がやりたいのかわからない」と逃げてた自分を思い出したから。年齢を重ね、会社組織や義父母等々狭いながらも世界が広がり、色んな人と接していく中で両親の生き方にもやっと敬意を払えるようになりましたが、それまではやはり・・・(苦笑)
 今でも幼いんですが、今以上に幼く拙かった私を少し(少しかいっ)情けなく思い返した場面でもあり、非常に印象に残りました。

 末っ子らしく周囲をちゃんと見て状況を理解してる賢さ、どこまでも優しくて緩やかで、賢くて優しいが故の狡さを持つ大樹。その大樹がさおりを最後追い詰めて許して、父の介護を決意するまでの流れがとりあえず好きです。冷静に外堀を埋める事でさおりだけでなく、自分も現実や家族とうい壁(ある意味逃げ場であり壁なんだろうなと思うんです)に追い詰めて、自分や家族と向き合って「やり直す」事を静かに確実に決意する。そんなしなやかな強さを感じさせてもらえた場面。だから大好きです。

 で、大樹といえば忘れちゃならない、体操服姿(笑)。勿論「お父さん!!お父さん!!ぼく逆上がりが出来た!!」から始まる一連の小学生モードな堺さん(違)には、会場大笑いでございました。あんなにひょろんとした小学生って(大笑)。そして、小学生らしく椅子に座って足をブラブラさせてたり、やたらお腹を空かしてたり、調子に乗って「ど~き~ん」と妙に浮かれて囃し立ててる様子の堺さんは、最高でしたよ!!(どこか視点が違う)。
 また、正樹さんの声真似してるのとかも私としてはツボでございました(だって楽しそうなんだもの/だから視点が以下略)

 忘れちゃならないのが藪先生な池田成志さん!!
 どこまでが台本通りでどこからがアドリブなのか不明ですが、この方の得体の知れなさは可笑しいとしか表現できません(笑)。藪先生が出てくるだけで場が明るくなるというか、空気が軽くなるというのか、そのパワーは絶大でした(笑)

 正子姉@七瀬なつみさんと美樹姉@菊池麻衣子さん。
 七瀬さんは『ぽっかぽか』の母役が大変好きな女優さんです(あのドラマは良いドラマでした。娘も可愛かったし父の羽場さんも良かった^^)。が、七瀬さんの醸しだすまぁなんとものんびりとした空気が心地良かったです。そして、対する菊池さんの鋭利な空気と相まって、何所にでも転がってそうな「姉妹」関係が見えた気がしました(私は一人っ子なのでいまひとつ姉妹関係とかが判って無いんですが^^;;)。
 実はこのお芝居でぐっときたのが、正子姉がイミテーションの指輪をはめ続けてる理由でした。はっきり覚えてないんですが「贅沢を知らない頃の私を知ってる」という台詞が柔らかな棘として胸に突き刺さりました。
 何者でもなかった過去の自分を愛しく思い懐かしむ言葉に、彼女の年齢や重ねてきた年月、彼女の居る現状を垣間見た気がして、もしかしてあの家族の中で一番キツイ状況にあるのは彼女なんじゃないかと思ったりしました。
 で、対する菊池さんの感情的な面には「あるある。わかるわかる」と非常に深く頷いきました(笑)。上昇志向があって努力もしてる。けれど、その上昇志向の隅にあって気づかない(見ない)振りをしてる「弱さ」と対面した時には、脆い・・・うわぁ現実的だわ・・・形とか切欠は違うだろうけれどこういう面あるよな・・・と妙に親近感を抱いたのは彼女でした(笑)

 唯一悔やまれてならないのが、さおり役の星野さん。
 芸達者(というか個性の強い)面々が周囲に居る分どうしても点数が辛くなるんでしょうが、在る意味キーパーソンな役なので、もう少し説得力というか何かが欲しい・・・と思われてなりませんでした。
 立ち姿とか不安気な様子とかは良かったと思うんですが・・・・(^^;;

 カーテンコールは都合3回あったんですが、皆さん手を振ってくださいまして、振り方にも個性があり見てて楽しかったです。また、堺さんが両手を前に伸ばして手を振ってる姿には、可愛い・・・としか呟くしかありませんでしたでございます(馬鹿)。
  
 いろんな意味で楽しいお芝居でした。今年前半は恐らくこれが最後の舞台になると思うんですが、最後のお芝居がこれで良かったと、そんな風に満足できたことに感謝です!!