2005年4月11日月曜日

『デモクラシー』

 週末、タイトルのお芝居に珍しく相方と行ってきました。

 相方を誘った理由は、70年代前半の旧西ドイツで起こったある政治スキャンダル(実話)を描き、その中心にいるのが旧東ドイツのスパイと旧西ドイツの首相という、物凄く硬い(笑)政治劇なのと、登場人物が全員男性である、恐らく「恋愛モノでは無いだろう」という3点でした。
 終了後、思った事は「時代背景等々説明してもらえるし、相方誘って大正解!!」とういことでございました(笑)

 題材もそうですが、出演者も予想通り(笑)華やかさには程遠いものでしたが、そんな事はどうでもよいほどのお芝居でした。
 役者や台本、演出等々の土台がきっちりあり、その上にしっかり作りこまれ、質実剛健で深さのある台詞劇がこれほと素晴らしいとは、予想外の収穫でした。劇中一切の音楽が無く、そのため『静謐』といっ印象も感じました。またその事が逆に台詞や時代を際立たせる結果になっていたのが興味深く感じました。
 ただ、時代背景や当時のドイツの政治的立場等々が見えないと判らない部分も多々あり、時折置いていかれる場面や台詞が若干聞き取れ難い部分もあったりしたのが勿体なく悔しい部分でした。

 また、政治(歴史又は風刺)劇を生で見るのは始めてで、当初「話について行けないかも。誘った私が寝たらどうしよう・・・」とやたら不安がってましたが、観劇後は心地よい疲れと深い充足感を感じました。観劇後の疲れは、やはり物凄く頭(記憶)をフル回転させてた所為だと思われます(笑)

 以下思った事をつらつらと・・・

 このお芝居、男優さんのみで構成されてるんですが、誰一人として埋没することなく、個々の立場や複雑性が見えるのは凄いとしか言いようがありません。しかも殆どの時間舞台上で『役』として存在してる。台詞が無い時でも、背景として一人の役を演じられてれるというのか、それが全く違和感が無く、対立構造や矛盾なんかを体と表情、そんな距離感だけで見せる。それが全編に渡ってみっしり感じられたお芝居でした。
 また、こういった部分が舞台を見るときの楽しみでもあり、緊張感を感じる理由の一つなんだと実感しました。

 そんな俳優陣で強烈に印象に残ったのが、主演でもある鹿賀丈史さんの首相。
 カリスマ性と精神の不均衡さといい、何ともいえない色気といい流石でした。演説の場面やある種カリスマ性を発揮する場面には、思わず息を呑みこの人にだったら全てを任せても大丈夫、と思わせられるほどの魅力がありました。
 他印象に残ってるのは、近藤正芳さん(肩書は首相執務室長だったかと)と今井朋彦さん(東ドイツのスパイコーディネーター)、藤木孝さん(内閣の黒幕的存在)、三浦浩一さん(後の西ドイツ首相)。
 『組!』出演者でもある今井朋彦さんと藤木孝さんの舞台は今作が始めてだったんですが、思わず「・・・・」と無言になるくらいの存在感と説得力のある台詞回しでした。お二人ともTVより舞台の方が映えるというか、独特の存在感がありとても強烈で目がひきつけられました。
 特に、藤木孝さんの底が見えず一筋縄ではいかない何か(常に腹と言葉が違う怖さというか、政治の汚い部分を常に引き受けつつもそれを己の内に仕舞いこみ、毒や武器としてしまいこんでるかの様子というか・・・)、そして台詞が無いときでも感じる無言の存在感や圧力、それらがある種の色気や魅力となってたように感じました。まさかあの「松平主税助」に色気を感じるとは自分でも驚きでした。
 今井さんは舞台上では「空気」というか「傍観者」的役割だったんですが。それでもやはり独特の理知的である種の透明な空気感がありました(また声も良く通るんです)。

 お芝居自体は、例のベルリンの壁崩壊時流れていたニュースを思い出しつつ然程混乱もせず、何とか流れについていく事ができました。東西冷戦下のスパイの存在、情報の重要性、スパイが抱えていたであろう忠誠心と矛盾、当時の東西ドイツが抱えていたであろう矛盾とその複雑さ、連立政権が抱える脆弱性と自己矛盾、そして何時の時代にも国にもあるであろう政権内部での個々の思惑、組織と個の関係、何より「人」が持つ複雑性や矛盾や良心・・・そういった部分を複雑に絡み合わせながらも、単純に「人」(=個人)の問題として噛み砕いて見せてくれたお芝居だったと思います。

 当時の世界情勢やドイツの政治等々、恥ずかしながら不勉強なためきちんと把握できていないですが、それでも十分輪郭は理解できました。
 また、この舞台である時期のドイツの政策が以後の西欧諸国に与えた影響も本当に知りません。が、16年前のベルリンの壁崩壊がドイツにとってどんな意味を持っていたのか、それを漸く(表面だけかもしれませんが)理解できたように感じました(壁が崩れる事を示す場面、体が震えてなりませんでした・・・)。
 そして、やはり「歴史」を学ぶ事は必要なんだと今更ながら感じさせてくれました。
 大戦後の世界情勢が面白いのは判ってるんですが、なかなか手を出せずにおりまして。というのは、専ら相方の知識が豊富なので、何かあれば相方に質問すれば大概講釈してくれるので、すっかり甘えてる現状です。がしかし、このお芝居をきっかけにしてこの時期に関する本読んでみようって気になりました(^^;;。