2011年5月28日土曜日

『県庁おもてなし課』感想

 とある場所でも少し感想を書いたんですが、どうやら消化不良のようで(苦笑)。少し長めの感想をこちらで書いてみたいと思う次第です。

 当初、この単行本を購入する予定はありませんでした。文庫落ちしたら買ってもいいかなぁ的な感じ。それを買うことにしたのは、印税を東日本大震災の義捐金にすることを聞いたから。好きな作家さんの作品だし、ささやかな寄付だと思って買おうかな程度。
 
 買って3週間目位に開き、その日に読了。有川浩作品は大体その日に読了しちゃいますので、決して速いペースではないです。てか、相変わらずサクサク読ますよなぁという感じ。

 まず読み始めて感じたのは、下手したら有川浩は頭打ち早いかも、でした。読み終わっての感想は、ここまで作者の顔が見えるのはどうよと。『空の中』や『海の底』で著名な書評家に評価された部分を消してどうするよな身も蓋もないもの。失礼な言い方をすれば、こういう作品・キャラ・設定は食傷気味になったなぁと。

 確かに、県庁と民間の「手法の違い」を見せつつ、民間=住民にも「役所」が慎重を重要視するゆえに硬直化した一因がある、と書く当たりは上手くバランスを取ってるなぁと感じます。決して一方的でヒステリックな「役所批判」になっていない部分にも、有川浩の誠実さを見ます。恐らく、役所が民間を上手く使う事や、役所が民間に上手く使われればいいという結論なんだろうと(この辺、Amazonのレビューで、単に役所批判と受止められてるのが多く、もやっとしたり/苦笑)
 ただ、そこに結論を持っていくのならば、キャラの比重が違う気がするんです。
 清遠だけでなく、内部で奮闘し「役所ルール」の中で手練手管を使おうとしてるであろう下元にもっと焦点を当てるべきだったのじゃないかと。清遠は正直ジョーカーなんですよ。どんな風に書いても動いても「清遠」という個性で、読む側を納得させられる。物凄く現実離れしてるが故に魅力があるんです。
 その反対に下元は然程現実離れしてない気がするんです。役所ルールを知って、その中でギリギリの攻防をして作を弄して「実」を取る術を知ってるタイプ。どんな組織にも一人は居そうな人じゃないかと思います。そういうキャラが、柵の中で「実」を取る(取れない)姿を描いて欲しかった。てか、それをエンタメに落とし込んで描ける作家さんだと思ったんですよね
 有川作品だから、恋愛要素があるのは織り込み済みですが、今作に於いては多すぎやしないか??と。確かに、胸キュンはしました。けど、この作品に於いてはもう少し恋愛要素が少なくても良かったんじゃないのなと思わざるを得ません。

 作者の顔が見える云々について。有川浩のここ最近の作品は、実体験が即作品に反映されてるのが多い気がします。確かに、そういうタイプの作家さんであることを拒否しませんし、上手く乗せてくれて見せてくれたら満足ですし、内輪ネタも作品として昇華してたら良いんですよ。が、なんだろう「私はこういう体験をしたんですよ。それをこんな作品にしたんです。」と押し付けられてるような気がしちゃうんです。最初にそれを感じたのが『StorySeller(雑誌『StorySeller』掲載分。単行本は未読)でした。その時は、実体験を加工して短編で読ませるってのは中々面白いなぁと好意的に受け止めてました(ただ、あの恋愛部分は作者の顔が見えただけに恥ずかしいものがありましたが^^;;)
 それ以降、その手の作品が増えたような気がするんです。そうなると、やっぱり面白さが薄れてしまって。インタビューとかも読まなきゃいいんでしょうが、気になる作家さんだからついつい目を通してしまう。すると、登場人物の一人が作者なんだと分かちゃうという。インタビューを読まなくても、一般読者の相方が『StorySeller』読了後「この主人公の作家って、作者の投影やろ??旦那さんもきっとそうやろうなぁ」と感想を述べたくらい分りやすい。それが続くせいか、少々食傷気味になりました。
 あと、父親の姿は好意的に書かれたりちらついたりするのに対し、母親の描写は無いかネガティブなイメージなのも気になったりするんですよね。実体験が作品に反映されるタイプの作家さんじゃなきゃ気にしないし気にならい部分が、すごく気になってしまう。そうなると、作品を読むんじゃなくて「有川浩」を見てる感じになりつつありまして。一読者にそう思わせるは、職業作家としてどうなんだろうか?と疑問を感じたりしてます。

 私が有川作品に惹かれた理由は、ハードな設定にラブコメを融合させたギャップでした。更に言えば、SFに乙女ちっく路線を融合した眼から鱗の物語。また、大森望とか山本弘らが有川作品を評価したのは、そういう部分であったろうと認識してます(書評とか解説を読む限り)。が、近著ではそういう面がすっかり影を潜めてしまってる気がしてなりません。単なる「ラブコメ」とは言いません。きちんと取材されて、現実が持つ正負や組織や人が抱える負の面も歪めること無く描いて、読ませてくれる作家さんだと信じてます。特に感情の機微とかの描写は、繊細さすら感じるんです。そうい地にラブコメが乗る面白さ。ラブコメが加味される事により敷居が低くなってることは、決してマイナス要素じゃないんです。それが出来るってことは、凄い才能だと思いますし魅力でもあります。
 なのに、ラブコメ要素だけがクローズアップされしまい、『図書館戦争』後あちこちで「ラブコメの女王」と冠されるようなった事に、一ファンとしては非常に違和感を覚えました。それに前後して、SFちっくな作品が減った気がするんです。
 失礼な言い方になりますが、『図書館戦争』シリーズ以降どの作品を読んでも「同じ」な感じがします。似たようなキャラクターと似た恋愛設定、台詞。違うのは、キャラクターが居る場所だけのような。
 『県庁おもてなし課』でも、この恋愛模様は『阪急電車』とか『図書館戦争』でもあったよなぁとデジャヴ感がありまして。確かに、作者が好きなパターンはあるだろうし、作品に出ちゃうのは分かります。けど、似たの多くないか???と。そう思い始めると、作者の「あなた達はこいうの好きでしょ?これでいいでしょ?胸キュンするでしょ?」と言われてる気がしまして。何となく、折角「文章でラブコメ」が書ける作家さんなのに勿体無いと。

 今まで、有川作品は発売日に単行本で買ってきました。が、今後は文庫落ち待ちかと思います。

 色々キツイこと書いてますが、『県庁おもてなし課』の大きな目的である「高知観光へのお誘い」は、十分達してます。触れられてる場所、馬路村とか吾川村(パラグライダー)は絶対足を運んでみたい!!機会を作ってでも行きたい!!と思わせてくれました(多分行くと思います/)。それは、有川浩の「高知県」描写が素晴らしかったからですし、作品が面白かったからなんです。そういう意味では、単行本で買ったことに後悔は全くありません。矛盾しますが、有川作品を初めて読む人に薦めたい一作です(流石に自衛隊三部作とか図書館戦争シリーズはなぁ^^;;)。そう思うからこそ、物凄く勿体無い部分が気になったんだと思っていただければ幸いです。
 
 ただ、今まで発売日に単行本で購入してましたが、今後は文庫落まで待つかなぁな感じになってるのは事実です。