2006年1月11日水曜日

『新選組!! 土方歳三最期の一日』感想

 「お正月時代劇」とは銘打ってはいるものの、実質は『2004年大河 新選組!』若しくは、香取近藤と山本土方にとって、本当の最終話。それ以上でも以下でも無い作品だったと思います。そういった意味で、NHKとしてはどうか判りませんが(視聴率もあまり振るわなかったようですし...)、一ファンとしては充分満足できる作品でした。

 不安だった脚本と演出の兼ね合いも、まったく違和感を覚えることがありませんでした。違和感どころか、見たい画を見せてもらえたという満足感だけです!!.。無意味な表情アップも無く、大きい画で役者さんの全身の動きを見せてもらえて、なんかいいお芝居を見せてもらえたと思っております。本当にありがとうございました。

 この物語の主軸は香取近藤と山本土方の関係性であったと再認識すらさせられました。
  「公」だけでなく「私」の領域にまで踏み込み、挙句香取君の「公(仕事)」にすら影響を与えてしまった山本君の果てしない「愛」(としか言い様が無い)があればこそ、この着地であったと強く感じました(つうか…近藤を語る土方がどうにもこうにも香取に思いを馳せる山本君にしか思えなかったです^^;;)。

 また、2004年に三谷幸喜が紡ぎ、香取近藤・山本土方・藤原総司・堺山南を始めとする「新選組」の面々(勿論スタッフの方達)が築き上げた物語の終着点が、この作品であったことに大きな喜びと幸せ、そしてこれが最後であることに小さな寂しさを覚えました。
 とにかく観終わった後は、清々しく温かな気持ちになりました。これは恐らく、作中で亡くなった人達自信や彼らの「思い(志)」が何一つ「無」にされる事が無く、幕末から明治、そして現在へと引き継がれていると思えたからだと。『組!』で幾度も感じ、三谷氏も何度もインタビュー等でおっしゃっておられますが、死者が「生きていく者」に残す「何か」を確実に今回も感じることが出来ました。

 そして、歴史とは想いを託された人達が、託した者たちの死や思いを無駄にすることなく語り継ぎ、繋いで行くものであるんだと。果てしなく恥ずかしい表現をすれば「想いのリレー」なんだな、と(恥)しみじみ感じた次第です。ただ、それが「勝者」として「正史」として「真実」として残されるのか、「敗者」としてその「真実」は隠されるのかの違いだけであるんじゃないかと。
 挙句、歴史においての「真実」の曖昧さを見ながら考え、また傍流となったものに光を当てて初めて、歴史とは立体的に浮かび上がるんじゃないかと、そんなことすら考えさせられました(めでたい正月なのに)。

以下いつものように時系列を無視した雑感です。

・土方の最初と最後の台詞は予想通りでしたが、それでも心動かされることに変わりは無く。1年間の積み重ねって本当に大きいものだとも、一言の台詞をも無駄にしない脚本に改めて驚いてみたりです。
・役者二人の台詞だけで長回しの場面を、一度もダレル事無く、緊張感を持ち続けられるってのは本当に役者と脚本の力だよなと感嘆いたしました。それを巧く映像として収めた「今回の」演出も素晴しかったと思います!!(繰言になりますが、以前だったらアップアップでうんざりしただろうなと思ったり/酷)
・照英島田と山本土方との関係が、香取近藤と山本土方との関係に近くて思わず微苦笑してみたり。
土方に絡む島田が、どうにもこうにもラブラドール・レトリバーに見えて仕方が無かったんですが…(近藤に絡む土方は紀州犬だったのか?!)
・片岡榎本&吹越大鳥ですがまったく違和感が無く、土方を含めて三人三様の生き方や考え方が見えたのは流石だと。また異なる個性や思考性が「勝つ」為「生きる」為に変化してく様はホント見ごたえがありました。ただ、悲しいかな画面がものすごく地味で、本当にこれは「正月時代劇」なのか!?と少々疑ってみたり(笑)
・池村鉄之助の場面だけは華があったというか、和んだというか。それでも、必死さが伝わってきて、彼が草原を走る最後の場面は、彼らの未来を思うと同時に、何がなんでも生き抜いて多摩まで辿り着いて欲しいと祈るような気持ちになりました。しかし、そういった感情を覚える程、まったく可愛いかったですよっ!!!鉄之助はっ!!!あの可愛さだったら、そりゃ「あの」山本君も可愛いと思うはずだわ、と大きく納得するほどの可愛らしさと凛々しさでした(笑)。
・永井様の台詞で「ごめんんさいでいいじゃないか」とか「(新選組を)受け入れなかった国がどういう国になるのか見届けるんだ」とかが、痛くて切なくて深くて優しくて、残ってます。永井様が抱えてるモノも複雑であの言葉は自身を納得させるために言っていたのかと、ちょっとだけ穿ってみたりです。また、佐藤B作さんのお芝居がちょっと他の方とは違っていたのが、更に旧時代を感じさせられました。
・これまで「託されて」きたばかりの土方が、生きる者に「託した」モノの大きさや重さを思うと、市村が草原を駆ける場面は、言葉無く祈るばかりでした。

お楽しみだった回想場面について
○試衛館
・兎にも角にも、万歳っ!!!!!ですよ(って何?!)
・やっぱり藤原総司の無邪気さは最強でした(だから何)
・総司の「振り逃げ」とそれをつっこむ土方が可笑しいやら楽しいやらで。三谷さんあて書にも程があるよ!!!と大笑いでした。
・山南さんが話す度に嫌そうな顔の土方が懐かしく、微笑ましく思えました。あの頃の上昇志向と何も知らい無邪気さは、こんなに幸せで温かい風景だったんですよね...。
・源さんは熊に勝ったんですか!?しかし、一刀両断に「じゃ強くない」と斬るなよ、総司。せめて凄いとか言ってやれよ...、あまりにも源さんが可哀想だろうよ...とやっぱり総司に突っ込んでおりました。
・山南さんの空気を読めてない(笑)深〜い言葉の数々に、堺山南さんだよっ!!流石だよ!!!と意味不明に盛り上がっていたのは内緒です。
・平ちゃんっ!!!!えぇやっぱり平ちゃんは良い御子でした。
・しかし、この回想場面ですら無駄にしない脚本って!!三谷脚本の素晴しさを思う存分味あわせてもらいました。まさかあの「鵺話」が土方の心情を表現する伏線として生かされるとは、予想すらしませんでした。三谷さん、ごめんなさいと言いたい気分です。

○会津
・容保公の佇まいに、会津の悲劇が被さってしまい。この方はこうやって己の運命を淡々と受け止めたんだろうなと思いました。
・わんこ最後の恩返し。

 上でも触れてますが、正月時代劇としては派手な映像も無く、華やかな女優さんや衣装は無くと、これまで違ってかなり地味だったように思います。男ばかりの映像且つ台詞の応酬劇に果たして一見さんは付いて行けたのか??とちょっと不安になりましたが、あそこまで徹底してくれれば「ここまでやるかNHK」と清々しい思いでした(笑)