2007年7月30日月曜日

氷室冴子 について

 『マリみて』を読んでいる最中に無性に読みたくなったのが、氷室冴子先生の『クララ白書』&『アグネス白書』でした。『マリみて』の先輩とも言えるこの作品、コバルト文庫の古典いや名作と言っても差支えは無いと思います。
 この作品は、小学3年で出会い、以後暗記するほど読み倒しました。お陰で登場人物の形容詞(愛称)のみならず、小説の一部は諳んじられます!!
 例えば、「桂木さんが好きです」から始まる夢美の告白場面とか、白路さんが「椿姫」と称えられる様になった経緯場面とか、『佐保彦の反乱』や『みずうみ』の稽古場面とか、しーのと高木さんのデートとかホント無駄に脳の容量を使ってるんじゃないかと?と思うくらい、です。

 ちなみに、私にとっての『クララ』『アグネス』は旧版を指します。数年前に出た新版は、「公衆電話」が「携帯電話」に変更されていた事にショックを受けてしまい、私の中では「無かった」ことになっております(狭量だとは思いますが、思い入れの強さに免じて下さいませ)。
 携帯電話を使うという改定が、時代に合わせたものだと理性では納得できても、心情が付いていかなかったと申しましょうか...(つうか、しーの達が携帯を使う姿を想像できなかったんですよ/涙)。

 で、やっぱり図書館にお世話になりました。
 改めて読み返して思った事は、「巧い」でした(笑)。現在のように「人気が出てきたからシリーズ化」って流れではなかったと思われるので、4巻(『アグネス白書 パート2』で終わるのが非常に潔いいんです。無駄な挿話とか、引き伸ばしと思われる話も殆ど無いですし。
 そして『マリみて』と違うのがイベントの扱い。学生生活を描いている作品ですから、文化祭もクリスマスバザーや運動会やらの舞台設定は勿論あります。が、何れも準備~前夜までの喧騒と後日談で済まされてるのが、如何にも「氷室冴子」らしいと申しましょうか(周辺を描くのが巧いと言いましょうか)。その、喧騒がまた愛おしくて愛おしくてならないんです(『アグネス』のクリスマスバザーは光太郎とのすれ違いがメインの為、当日風景を描いてますが、しーの行動や心象を詳細を細かく追ってない)。事細かに描写しないのに、まるでその喧騒に参加しているような気がするほどです。 

 しかも、作中で一番美味しい(え?!)と思われる、奇跡の高木さん(『マリみて』で言うなら現紅薔薇みたいなパーフェクトな容姿のお方で、学園内のアイドルでございます)としーののデート(笑)。これすらも、事細かな描写はありません。なのに、奇跡の高木さんの男前さや、きらめきの虹子女史や清らかなる椿姫な白路さんたちとの友情、しーのの舞い上がり振りなんかが伝わるんですよね~。

 そして、この勢いのまま『ジャパネスク』シリーズも借りた結果、氷室冴子作品が今でも大好きだと再認識いたしました。

 実は、氷室作品は『白い少女』からコバルト以外の作品も含め全て持ってたんです。が結婚を機に全て売り払ったんです(涙)。今となっては、相方に馬鹿にされようとどうしようと、全作残しておくべきだったと悔やまれてなりません。

 『クララ』『アグネス』シリーズと『マリみて』はやっぱり大きな違いがあると思うんです。
 確かに、「少女ばかりが存在している」閉じた世界を題材にしているのは同じなんですが、『マリみて』の視線の方がより「内(輪)」や「少女たちの内面」に向いてる気がしてなりません。ある意味それが魅力だと思うし、あのガラス細工の様な雰囲気を醸し出してる要素だと思います。
 が、『クララ』『アグネス』は物語内に出てくる「古典」によって「少女達だけの世界」じゃない世界に対して開き、繋がっている気がします。そこが一番大きい違いだと思えてなりません。

 これは氷室作品全体に言える事なんですが、彼女の作品を読むと作品に出てくる「古典」に興味が沸いて、どんな話なんだろうか??とついつい手に取りたくなるんです。冗長になりますが、何個か例を挙げてみます。
『クララ白書』
 ○みずうみ: 中劇(中等部主体の演劇)演目。
 本番で最愛の深川の茶器を割られ、動揺しつつも演じるマッキーのラインハルトが愛おしいんですよ。
 ○野菊の墓:中劇候補作。
 「しーのの民さん」という三巻のコンセプトが素晴しい(笑)
 ○古事記から題材をとった『佐保彦の反乱』:しーのが虹子女史の深謀遠慮に見事に嵌り(笑)、巻き込まれた「古文研究会」の劇作品。
 宝塚バリな設定と、絹糸製の特性鬘に一本一本爪切りで切れ筋を作る白路の執念とか、高木さんの男前さんかが素敵です。
 ○ピーターパン:高劇(高等部主体の演劇)演目。
 結局主演が捻挫し主役交代の為、今ひとつの出来だった作品。

クララ・アグネス通じてだと、 しーのの座右の書である吉野屋信子!!!! 
 最近になって漸く復刊版の『紅雀』を読みまして、なんか「しーのはこれに涙していたのかぁ」と複雑な気分になっておりました(笑)。

『シンデレラ迷宮』
 ○ジェイン・エア
   ブロンテ姉妹の作品は氷室作品が扉を開いてくれました。恥ずかしいですが、ジェインは中学になって読みました(『嵐が丘』に至っては高校時代と言う遅さ^^;;)。
『雑居時代』
  ○女の一生
   モーパッサン版です。これは作中で一馬が「モーパッサンの方」と親父様に説明しております。
 
『ざ・ちぇんじ』
  まんま「とりかえばや物語」
  とりかえばや物語は『マリみて』中でも使われてたんですが、昇華のされ方が不満足でございました。

『なんて素敵にジャパネスク』
  ベースは恐らく、『源氏物語』じゃないかと思います(特に人妻編は^^;;。とは言え、この作品には平安朝の色んな作品が出てきますし、気づかない部分でも古典のモチーフが使われてる様な気がします『伊勢物語』とか『蜻蛉日記』とかとか)。

 こうやって書いてみると、洋の東西関係なく入ってるよな〜とか、また作品中に見事に効果的に埋め込んでるよな〜と改めて関心しました。
 氷室作品から扉を開かれたお陰で、敷居を高く感じる事無く「古典」を楽しめた事は幸せだと感じています(『源氏』は与謝野版と橋本版で何度か挑戦したものの、何れも須磨まで辿りつけてません...。読み切ったのは『あさきゆめみし』だけという情けなさです--;;;)。