2011年6月19日日曜日

映画『ブラック・スワン』感想(二回目)

某所にて6/19公開。


前置き:前段でも書いた映画『ブラック・スワン』の感想です。ただ、時間を置いて打った感想のため、若干冷静になってるかもです。そのため、一応こちらにも載せておこうかと。グダグダっぷりは変わらず(苦笑)


公開前から気になっていた映画『ブラック・スワン』を漸く鑑賞。 

 巷で言われてる程サイコ・ホラーには思いませんでしたが、映像とナタリー・ポートマンが素晴らしくてそれだけでも映画館で見た価値はありました。 
 サイコ・ホラーと感じなかったのは、その手の映画にしてはネタ割が分り易かったせいじゃないかと。ホラーとかミステリーの枠組みにしてはちょっと大雑把な気がします。強引にカテゴライズするのならば、「母殺し」の物語なのかなと。 

 『オイディプス王』に代表される男児の父殺しは、あちこちで形を変えて描かれてのに対し、女児の母殺しを扱った作品って少ない様に感じます(浅学な私が知らないだけだと思いますが)。なので、その意味ではインパクトがあった映画でした。 
 また、信田さよこ氏が母娘関係について書かれてる内容と重なる部分もかなりあったのも、興味深かったです。 
  
 女児の母殺しを扱った作品が少ないのは、一卵性母娘の存在が近代的なものだからかもしれません。 
 一卵性母娘が生まれる理由として、社会が経済が成熟し、女性が子育てに専念できる環境が生まれる。なのに、女性の社会的地位は旧時代とそれ程変化が無く、一旦家庭に納まってしまうと社会への再加入(金銭交換される社会であり、地域活動は別)が難しく、それ故に子育て=母親の評価(若しくは叶えられなかった夢の再実現)になる。それに加えて、母親と対の存在である父親が家庭内で希薄であった場合、母子同一幻想が肥大化するのだと理解してます。 

 父親の存在が希薄だと、母娘の関係は狭く密接になりがちなんですよ(実体験/苦笑)。極端な言い方をすれば、生殺与奪権を握ってる母親の「かわいい子」でなくては生き延びられない状態。母親の「かわいい子。愛しい子」である限りは、拒絶もされないし衣食住も満たされる以上のものを与えられる。それは確かに愛情だし慈愛です。が、見方を変えれば真綿の様な檻。 
 ニナと母親の関係性てまさにこれなんだと思うのですよ。自分の夢をそのまま娘にスライドさせ、助力を惜しまない母の姿。母の夢を自分の夢と思い込み努力する娘。けれど、娘が母以上の成功や幸せを掴むことを無意識に拒み邪魔をする母。本当に信田さよ子氏の本に書かれたままだよ...と。 
 映画のテーマであろう「自己の解放」は、あの母娘関係では余程の才能があるか、周囲が手助けしなくては出来ないと思います。その手助けは、映画にあったような自慰行為とか同性との云々というセクシュアルなものでなく、ニナ自身に色々なことを選択させること。そして、自分という存在を認めさせることだと思います。そういう部分では、造りが粗雑というか男性目線な残念でした。 

 また、これは「失敗した母殺し」だと思いました。「主役を演じる」という他者からの承認を得、漸く母の娘から脱却しようとしたニナ。その方法が善きにせよ悪しきにせよ(セクシャルなものである必要は無いと思うが)、母が作った繭(檻)を壊そうとした。結果、確かに彼女が望みうる「完璧」(これも呪いかもな…)を手に入れた。ここまでは、成功なのかもしれません。が、精神のバランスを崩し、不安に苛まれ、自傷する。それって、母を殺す前に自分を殺してると思うんですよ。言い換えれば、自分を殺すことだけが「母の娘」から逃れる術だったと。そして、結果残るのは「母」のみ。これが、失敗と言わずなんというのかとゾッとし、もの凄いホラーだよなとそこで感じた訳です。もし、ニナがあのまま公演を続けていれば、壊れるのは「母」だったと確信してます。壊れ方は分らないのですが、違った形で依存するか、ヨソヨソシクなるか…。互いが互いを認め合って、大人な関係を築く姿が想像できないんですよ(苦笑)。その辺が、一卵性母娘の難しいところだと深いため息をつくのです。 

 それが、こういう(表面的ではあるにせよ)映画として描かれたっていうことは、近代化が進んだ結果なんだろうなと思った訳です。言い方を変えれば、女性の自我が漸く普遍的なものとして扱われ始めたのかもなぁとか。 

 てか、なんで娯楽映画を見てジェンダー的なことをツラツラ考えなきゃならんのかと(苦笑)。 

 単純に映画作品として考えた場合、この映画ってそんなに良いか??と思うのですよ。確かに、映像は奇麗だったし、ナタリー・ポートマンは絶品でした。が、正直それだけの映画でした。 
 とは言え、引っ掻き傷を残してくれた映画だった事に変わりなく。ある意味、世界中どこでもあるんだね、この母娘関係は、と妙に安心させてもらえた映画でした。