2005年10月4日火曜日

9月に読んだモノ あれこれ

 一冊毎に書くと深みに嵌ってしまう気がしたので、読書メモって感じで雑感をつらつらと書いてみました。

○『半落ち』 講談社文庫 横山秀夫(著)
 書評や周囲の評判が良かったり、『文学賞メッタ斬り』で触れられていた「直木賞 落選の理由」等々で興味を持っており、文庫落ちを機に購入。
 直木賞時に話題になった「落ち」の部分には全く違和感はなかったし、それに付随する伏線の張り方も丁寧で引き込まれました。また、リレー形式で物語が語られることで、一つの事件の「謎」に対し、「組織」の論理とその狭間にいる「個」との軋轢、そして彼らが「心情的」に揺れ動く様がより丁寧に深く描かれていると感じました。
 また、「個」と「組織」の一面だけはなく、彼らが属する「組織」と「組織」の「『力』を巡る綱引き」と「保身」、「個」が「組織」で生きる残る為の「保身」や上昇志向と欲をこれでもかと見せ付けられた気がします。そして、全編を覆っているある種の閉塞感に息苦しくもなりました。実際、途中(弁護士の段)で手が止まったほどです(正直、似たような展開が続いて食傷気味になったってものありますが/苦笑)。
 ただ、最終場面にはやはり胸が詰まりました。それまで全体を覆っていた「薄暗さ」が、薄っすらとしてけれど力強い光が射すことで、穏やかな色彩と変化した気がしました。
 決して人生ってそれほど嫌なことばかりじゃないんだ、とかいったありきたりな言葉でしか表現できないんですが(^^;; 悲しみとも清々しさとも表現できない、なんとも言えない読後感でした。

○『光源』 文芸春秋社 桐野夏生(著)
 この本、文庫版を幾度か手にとっては結局棚に戻していた本でもあります。
「映画製作に群がる人間模様」といった感じですが、やっぱり桐野夏生です(って何のことやら)。
 底意地の悪い目線は相変わらずで、登場人物の欲や業が嫌って程丁寧に執拗に描かれてます。読んでる時には、足元を持たれて砂の中にゆっくり引きずり込まれる感覚がありました(ざらついた感じと言おうか・・・)。
 誰もが「空洞」を抱えていてそれを埋める手段を必死になって探してる。けれど、結局はそれぞれ埋めたい空洞は埋まることなく、違う何かを代替としてしまう。そういった意味で、登場人物が誰一人として「幸せ」にならない結末には、ある種の潔さを感じてしまいました。
 そして、やっぱり、女性の暗い部分の描き方は最高に素敵です(笑)。平穏な場面よりも、絶望や嫉妬、遣る瀬無さ、売らざるを得ない「媚」、葛藤、等々の部分を描いた場面が強烈に印象に残りました。
 ただ先に『グロテスク』を読んでいた所為か・・・多少物足りなさを感じた部分もあったりしました。
 次は、『魂萌え!』を借りる予定。

○『照柿』 講談社 高村薫(著)
 横山氏、桐野氏を読んだ後、物凄く読みたくなったのが高村女史の作品でした。で、本棚にあったのを久し振りに取り出しました(再読になる筈)。
 初読時には引っかからなかった描写やフレーズが、今回引っかかってしまって。何処がとは具体的に表現できないのが、自分でもかなりもどかしいですが。ただ、描かれる「猥雑」さが物凄く「美しく」見えたような・・・ふと、レクター博士の『脳内の宮殿』的な荘厳さを見たのかも知れません。
 出てくる人物全員が鬱屈してると言うのか、暗い淵を覗き込んでる重さと言うのか、あの文体(好みですが)の所為なのか、久し振りに読み応えのある重い本を読んだ〜って感じです(^^;;
あの文体及び世界観を忘れない間に、『レディ・ジョーカー』を引っ張り出して読みはじめました。

○『井上ひさし全芝居 その2』 新潮社 井上ひさし(著)
 来月初旬に行く『天保十二年のシェイクスピア』の予習のため図書館で借りた本。
 いや〜楽しかったですよっ!!文字を追いかけてるだけでも、物凄く楽しい!!。言葉遊びや本歌取りやらもう、シェイクスピアで心行くまで遊んでみました、ってな感じが心地よくて心地よくて(笑)
 お気に入りは、きじるしの王次の「To be or Not to be」古今東西名翻訳集な場面。これを藤原君で見せてくれると思うと、楽しみで仕方ありませんよ!!(無かったら悲しい・・・)。戯曲の全体像が掴めたので、これで思う存分舞台を楽しめます。


○『百器徒然袋・雨』 講談社文庫 京極夏彦(著)
 新書版は当然持ってるんですが、文庫で揃えてしまってるのでやっぱり買ってしまいました(^^;;;。
 それ以上に帯の「そうだ!僕だ。お待ちかねの榎木津礼二郎だ!」は必携だろうと思ったわけでして(馬鹿)。すっかり、まんまと講談社の罠に嵌められております(笑)。
 話は、榎さん大暴走!!それに渋々に見えて実は結構ノリノリで巻き込まれる京極堂と薔薇十字の僕達、としか表現できません(って)。
 もしくは、極々普通の市井の個人が「榎木津礼二郎」や「京極堂」達と知り合うことで、ドンドン下僕化していく過程が克明に描かれてる話(違うと思います^^;;)。
 これの感想なんて・・・・皆 大好きっ!!ってな感想しかでてきません・・・すみません。

○『大奥 1』 ジェッツコミック よしながふみ(著)
 突然コミックスです(笑)。メロディ連載時から気になっていた作品で、単行本化されたので早速入手。

 男女逆転大奥
  将軍は女。
  大奥には美男三千人

            -コミック 帯より-


 という、パラレルな大奥物語です。が、単に逆転してるというだけではなく、「もしかしたら、本当は...」という思考の遊びができる「根拠」が物語中に細かく提示されてるのがミソ。
 また、男女の「権力」に対する思考、権勢を手に入れるまでの手段の違いなんかが見事に描かれており、後半部からはミステリー的な要素が加わってくるという贅沢さ!!
 出てくるキャラクターもそれぞれ魅力的です。

 で私の好みのキャラクターは、男前(え)で遊び人でケチな吉宗公でも、吉宗公とケチで気があうけど遊び心の少ない越前でも、男気があって美男な水野でも、律義者な杉坂でもなく、吉宗公の側近である久通(おみつ)!!
 才能があるような風貌ではないんですが(ふくよか系)、実はかなり有能な官吏であり、細やかな心配りも出来れば、突っ込みも出来る!!完璧です!!下手な例えをするならば、吉宗公が研ぎ澄まされた刀で、久通はそれを収める鞘って感じです(氏の作品である『西洋骨董洋菓子店』でいうならば、吉宗=橘、久通=小野って感じかと)。

 また大奥の絢爛豪華な雰囲気と氏の絵が巧くかみ合って、艶と雰囲気のある世界が作られております。