2016年10月11日火曜日

2016年イングランド旅行雑記 - サーコンビ舞台鑑賞

何故か今年も行ってきましたロンドンな記録です。
今年は割りと長期間の滞在だったのと、他在中に色々ありすぎたので(笑)覚えてること、見たこと、感じたことを残しておきたいなぁ的な旅行雑記を緩々と。

 最初は二年連続で行くことになった最大の要因である、サー・イアンとサー・パトリックの舞台について。ことの発端から感想含めたまとまりのない雑感を下記に。
 ただし、お二人の舞台『No Man's Land (誰もいない国)』についての予習は戯曲の翻訳を2-3度通して読んだだけ(映像作品もあるそうなんですが廃盤になってるようで見ることが叶わず)の薄っすらとして把握しかしてないので、あくまでもお二人についての印象・感想です。




 事の発端は、昨年春頃に大好きなサー・イアンとサー・パトリックのお二人から「今年(注:2015年)の秋くらいに二人の舞台を今度はロンドンで上演するかも」という事前予告があったこと。去年の秋だと、もしかしたらベネディクトの『Hamlet』と時期被るかも! だったら一挙両得じゃないか!! とウキウキ続報を待っていたのですが、音沙汰無く。これは流れたかなぁと思っていたら、今年の年明けにこれまたお二人から「この秋にロンドンのどこかは言えないけどやるよ!」とTwでアナウンスが!!!!

 この仰り様だったら今年は絶対ある!! てか秋っていつ?? 何月からどんだけ公演期間あって、チケット発売はいつなの???? とソワソワ待つこと3ヶ月。
 3月のとある金曜、Twitter情報でお二人のインタビューが掲載されてたことを知り(多分Ian McKellen and Patrick Stewart bring No Man's Land to the UK - WhatsOnStage.com とか Ian McKellen and Patrick Stewart reunite in No Man’s Land )、ちまちま読解してたら「今日からチケット発売します」と書かれてるわ、いつの間にやら公式サイトができてるわて飛び上がりました。フォロイーさんたちが「ロンドン上演のチケットはアナウンス当日に発売多いから…」と書いてらっしゃるのは見てたんですが、まさか自分がそれを経験することになるとは^^;;
 相方には年明けから「今年爺達の舞台あるかもしれない。万一あったら絶対行くから!!!!!」と宣言してたのが功を奏し帰路で日程調整し、なんとか発売日当日に(飲み会帰宅後にチケット購入戦線参加という無茶さ)チケットを確保し、全体の旅程決めて航空券確保という慌ただしさでした。今振り返れば数時間であれこれ決済したよなぁぁぁぁ勢いって凄いよなぁぁぁとしか言えません(笑)

 そして、迎えた9/9観劇日。
 昼過ぎにチケット受取に劇場に行ったものの、緊張と現実感が押し寄せてきてエントランスで足震え声がでない状況でした。それを見兼ねた相方が対応くれて受け取ってくれたけど、チケットを手にしたら実感湧いて感極まってエントランスの椅子で泣いた残念さでした。だって、『X-MEN』公開初日から16年間ずーっと大好きで、色んな作品のお二人に感銘受けまくって、この方達が愛して大切にして情熱を傾けておられる「舞台」をずーっっと観たくて仕方なくて、それがやっと叶うかと思ったら胸がいっぱいになってしまったんです。(今あの時の感情を思い出しただけでも泣けてくる…)

 長い前置きはここまでにして本題の舞台についての感想です。
 まず、戯曲を読んだ時の印象は、この作品は演じる役者が巧いのは当たり前、その上技量が同じくらいで相性の良い役者さん同士じゃなきゃ上手くいかないだろうなというものでした。台詞が多くて場面場面で変わるスプーナーはもとより、台詞こそ少ないけれど縦横無尽なスプーナーを受けて返すハーストもかなり力量必要だよなぁと。そして、実際にお二人の舞台を観てその印象は強ち間違いじゃなかったと思ってます。
 実際に舞台上のお二人を観て戯曲を読んだ印象がストンと目の前に落ちてきたような感覚になりました。せめぎ合いでもなく拮抗でも協調でもない、けれど常に力が互いの間で行き来しあうというのか、攻守は決まっていないけどなんとなぁく攻守が入れ替わるというのか、互いに影響与え影響力を行使しあい奪い合う感じというのか…。とにかくアンバランスでバランスがいいというのか…。巧く表現できないもどかしさなのですが、そんな風な不思議さのある舞台でした。

 次にお二人について。
 最初から最後までスプーナーなサー・イアンの素晴らしさに目を奪われぱなしでした!! UK演劇界の生きる伝説と称される方なのは分かっていたつもりだったけど、そんな言葉から想像していた素人の期待や予想を遥か上でした!!!! とにかく、あのサー・イアンの動き!!! 身体の柔らかさとしなやかさと美しさと優美さがあって、なおかつ一切の重力を感じない軽やかさがほんとに本当に素晴らしくて(語彙が来い!!!)。常にステップを踏みながら、この方足元数センチ浮いてらっしゃるんじゃないのか??? この方重力を縦横無尽に操れるんじゃないの??? 体重ってどこ???? と思うくらいの浮遊感。その浮遊感もマグニートーやガンダルフが持つ重厚さのあるものでは一切なく、精霊とか人でないもののような下手したら透けて見えるんじゃないかと思うような軽さでした。なのに、突然ズシンと重さが増すんですよ…。
 役としての反応やタイミングは頭の先から爪先まで全て計算して制御して演じてらっしゃるはずなのに、どの場面でも「その瞬間」でしかない自然さなんです(ほんと語彙力が来て)。
 そして、刻一刻と変幻される見事さが素晴らしかったのです…。サー・イアン演じるスプーナーが時にユーモラスで時にチャーミングで冷酷非道で教養高い紳士で好々爺で死神で医師でいかさま師で浮浪者で下品で裁く人で阿る人なんです。そんなスプーナーはあらゆる階層や職業や生き様の老人の姿であるような気がしてなりませんでした。そんな多彩な変化は一切衣装も小道具も変えずに、微細な身体の動かし方、表情の僅かな変化、声のトーン(恐らく発音も変えてらしたように感じる)で生まれてくる変幻なのが凄くて…。今思い出しても鳥肌が立つくらい素晴らしかったんです!!!!! 熟練達人名人老練という言葉が浮かんだくらい、いるだけで惹かれ全てが美しく雑多な感じでした。

 対するハーストなサー・パトリック。
 劇中で殆どといっていいくらい大きな動きがなく、堅い印象の役です。が、スプーナーから投げかけれられるあらゆる言葉や行動への僅かな反応で、スプーナーの心の動きや葛藤、本質や抱えているけど(台詞として)決して語られない何かが透けて見える見事さでした。恐らく、この作品のテーマ的なものを担ってるのはハーストなんだろうなぁと。俗世間で成功して(階級と教養と知識と権力と財力を持って)いる人物を具現化した人物が、「老い」によって後天的に身につけたそれらが剥がれ落ちていき、その人本来の醜悪さ愚かさが徐々に顕になっていくのをユーモアと静けさで見せてる気がして…。しかも、緩やかな剥がれ方や罅の入り方という変化を大きな動きなく淡々と表現してみせるサー・パトリックの見事さたるや!
 基本的に動きの少ない役であったのだけど、動く場面や大きな感情の波を見せる場面に質量がぐっと増して清濁がみっしり詰まってる感があったのが素晴らしくてねぇ。

 劇中で強烈に印象に残ってるのが、ハーストが四つ這いになって自室に戻っていく場面のスプーナー。四つ這いになっているスプーナーを助けることもなく淡々と無言で手帳に何かを書きながら冷酷さを持って眺めてる姿が死神のように見えました。それまでのハーストに阿りつつ軽妙などこかズレた会話を交わしていたスプーナーから、突然裁かれる者と裁くる者へと立場が入れ替わったかのような冷たさがあって…。その時の舞台上の空気も一気に変わったのもね…。効果音や音楽無く二人の役者の変化だけでここまで空気が変わるのか、役者が空間を支配するってこういうことかと初めて実感した気がしました。
 そして、スプーナーは聖と俗や知と愚や稚気と老成なんかの間を片方に振りきることなく、ふわふわ漂うことでハーストに象徴される何かを浮かび上がらせる存在なのかなぁと思わなくもなくて。
 お二人共に舞台上で存在感を自由に操ってらっしゃる印象も受けました。ふと舞台上見えなくなることがあったんです。それは、その場面で必要だからなんですが…。かと思ったらいきなり目が引きけられる圧倒的ながあってただただお二人の素晴らしさに圧倒され魅了された2時間でした。
 忘れちゃいけないのが声!!!! マイク無しで微細な変化をあの劇場いっぱいに届かす声!!!! 怒鳴らないのに感情や高まりがあり、小声なのにきちんと明瞭に届く声!!!! 幸せでした…。




 
 加えて、舞台上で確実に観客の反応を取り込んでらっしゃると思ったりもしました。日ごとに変わる観客の反応をきちんと受けて、役として返して、それを互いが織り込んで共有していってるという感じがあって(語彙!!!)。その辺は長年舞台で演じて来られたからこその柔軟さであり対応力であり、互いの信頼関係があってこそ生まれる阿吽の呼吸なんだと思うのです。

 そして!!!! ステージ・ドアです!!!
 ええ恥も外聞もなく面の皮厚くお二人からサインいただいてきました!!!! しかも、お声掛けさせていただいて、それに対して目を見て微笑みを向けて応えてくださったという最高の贅沢をいただきました!!!! もうね、ほんと思い残すこと無いですよ…。ステージ・ドアのお二人は待ってるファン全員に優しくて、声をかけたファンと必ず目線を合わせ一言かけておられてゆっくり時間をかけてファンと交流されてらっしゃる素晴らしさでした!!!
 サー・イアンについては、サインいただいた後にお声掛けること(日本から来ましたと必死で言ったw)になったのに、わざわざ戻ってくださってほんの少し屈んで目を合わせて微笑んでThank Youと仰って下さったし、サー・パトリック同じように目を合わせて微笑みながらThank Youと仰ってくださったが夢のようで!!!! 今から思えば、素晴らしい舞台をありがとうございますとか言えれば良かったのだけど…。お二人の舞台を日本から観に来るくらい好きなことを伝えたくて…なんて自己中心な奴なんだろうととっても反省したけど、それでもそんな自己中心的な言葉に応えて下さったお二人の優しさにやっぱり感謝することしかできなくて…。大好きなお二人が更に大好きになってしまいました。
 ステージ・ドアの印象ですが、サー・イアンがご自身のことをShyと仰るのがなんとなく分かる気がしました。たおやかで物静かな美しい空気を持ってらした…。対するサー・パトリックは凛々しさと格好良さとおおらかさを感じましてね…。舞台での張りのある声と違ってお二人とも囁くような声だったのが印象に残ってます。えぇあの声をいたいただけで私は今後10年生きられますよ!!!



 






 

(比べちゃいけないのだけれど、やっぱり去年観たベネディクトの『Hamlet』とは質が違いました。どちらが良い悪いのでなく場数と演じてきた作品・役の数からくる経験値と積み重ねた技量とからくる圧倒的な違いなんだろうなと。『Hamlet』とうお芝居自体は若さや未熟さや不安定さが魅力だと思うし、ベネディクトのハムレットも素晴らしかったのは確か。けどやっぱり小劇場とバービカンの大きさの劇場では親密度も随分異なるからなぁ。正直、ベネディクトにはこの方達みたいになって欲しいと願わずにいられませんでした