2015年4月12日日曜日

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』雑感

レイト・ショーで鑑賞。
かなり期待して観に行ったんですが、高い期待を裏切らないどころか期待以上に面白く刺激的な作品でした。虚と実が曖昧というか渾然一体になった感じで、何よりも舞台と映画と役者、裏で支える人、批評する人たちへの沢山の愛情と皮肉を詰め込んでる作品だったように思います。
 Twitter上でレイモンド・カーヴァーの短編小説『愛について語るときに我々の語ること』を事前に観ておいたほうがいいよとか散見し若干の緊張もありました。が、正直その予習や舞台や映画についての予備知識がなくても、少しでも興味があったり好きだったりすると楽しく観れる気がします(勿論、好分、き嫌いや作品との相性はあると思うので、一概に言えないのは分かってるんですが^^;)。加えて、演技が素晴らしいので好きな役者さんが一人でも出演してるならそれ目当てでみても良いのでとも思います。

以下、まとまりのないネタバレ雑感。


・この作品がよくアカデミー作品賞受賞したなとホントに思いまいした()。ハリウッドとブロードウェイと批評家と役者に愛情たっぷりに喧嘩売ってるよこれ!とどんだけ見ながら思ったことか。裏側と内側を面倒くさいものとして描き、誰一人として「人格者」でなくどちらかと言うと卑小で未熟で何かにしがみつこうとしてる人たちしかいませんでした。けれど、その人々が裡に持ってる(持とうとしてる)矜恃や誇りや才能なんかが、ささやかだけれど美しく純粋であるように見え愛しさを覚えるんです。決して美しい物語でないけれど、それが「役者」としての姿だとしたら私はその醜さと美しさを魅力的だと思うんだよなぁと。 

また役者の狂気と嫉妬と葛藤と未成熟さなんかを怖く哀しく滑稽さをもって描いて、これを演じきったマイケル・キートンとエドワード・ノートンの技術の凄さに圧倒されました。けど、可笑しい場面は只管可笑し素晴らしさ!!(ただ、その可笑しみはUS映画界隈や舞台関係ネタになるから、ちょっと日本では無理があるのかなぁとも思わなくもなく。 )

UK役者がよく言うようにUSの舞台と映画がきっぱり分かれているから生まれた作品のような気がします。役者だけでなく、批評家も役割(専門)がきちんと分かれていて、その中でしか通用しない(舞台>映画な拘りなど)批評が書かれ、それが影響力を持ってる。そんな閉鎖性をも見せてるのことに驚きがありました。

・舞台と映画の間に位置する作品なのかとふと。その境界も曖昧さを強調してるのかと
 (以下、作中で描かれるブロードウェイとハリウッドは極端であることを前提にします。)
 ブロードウェイでは「舞台>映画」であり作品そのもののが問われ、芸術を知り理解してる(と思われる)人たちが相手であるのに対し、ハリウッドでは「舞台<映画」であり作品の内容関係なく興行成績が全ててあり楽しければいい(と思われてる)人たちを相手にしてる。その世界の中で、ハリウッドで名声を獲得し落ちぶれた役者が復活のためにブロードウェイへ挑戦する。それは、自身の過去の名声が生きていると信じて(興業や宣伝という部分において)、役者としての矜恃を本場で試し新たな名声を獲得することでもある。なのに、SNSという大衆文化の力も知らず、況やブロードウェイの作法も知らない。そこから生まれる齟齬と空回りと映画と舞台両者に対する愛憎入り混じった感情が可笑しみを生み出してるんだろうなぁと。
 そして、大衆と芸術に無知であるがゆえに迎える展開とか…。いや何を言いたいのか分からなくなってきました(苦笑)

・映画舞台問わず、演技におけるリアリズムもちょっと嫌味っぽくバカにしてるよねwと思ったりもしました。というか、表現や虚構の中の現実って一体なんだろうか…とグルングルンしてます。

・虚実が曖昧な印象を受けたのは、登場人物の心情と劇中劇や突然引用される「セリフ」がリンクしてるからなのかなぁと。中でもリーガンが批評家に虚仮にされたあとブロードウェイを歩く場面で、『マクベス』の有名な一節が突然引用される場面はぞくっとしました。しかも、路上パフォーマンスとしてそれが描かれる見事さ!!! 

・話題の長回しですが、想像していたのとは異なりシームレスな印象が強くありました。カメラが追ってる時間と実際の時間が異なるにもかかわらず、流れが切れない感じというか。それと舞台と舞台裏が主なため閉塞感があるような撮り方にもなっていて、一幕物の舞台作品をスクリーニングで観てるかのような気分にもなりました。NT Liveとか劇団☆新感線やMETライブなんかの劇場中継などに触れている人には、あまり違和感をあまり感じ無いじゃないのかなと。
 長回しというよりシームレスな画面であることで、不思議なリズムが生まれるのと虚実の境がより曖昧になる効果を生んでいるようにも思え、計算され尽くした画面作りの素晴らしさも堪能できたような。
 (三谷映画がやりたい長回しの究極はこれじゃないのかとも思い、ちょっと遠い目にもなったです/苦笑)

・最後の場面はちょっと答えが出なく。バードマンなくしてリーガン自身存在し得なかったことに対する絶望なのかなんなのか。そして、サムが上空を見上げた意味とは…。あそこに希望を見たいきもしつつ、けどサムもリーガンの妄執に引き込まれてたとも見えるわけで…これこれでグルングルンと(笑)

・何も考えずに見て、臨場感ある映像に引き込まれて、緊迫感と狂気と笑いが渾然一体となった物語に揺蕩ったらとても楽しい映画だと思います。そして、鑑賞後はブロードウェイ行きたい! 舞台観たい! 映画観たい! 劇中で使われた作品読みたい! と沸々と湧き上がる欲望を感じましたです。ホント、映画と舞台と本が好きならお勧めしたい作品。

・音楽とOP+EDが最高に格好良くて!! ドラムがメインの音楽は不安感と切迫感とリズムを醸し出しててサントラを買いたくなりました^^  OP+EDはフォントも好きならアルファベット順にタイピングしてる風なのがホント好きすぎて...! 

・とは言え、Twitterやこういうまとめを見るとやっぱり見る人を選ぶんだろうなぁとも。