2014年7月5日土曜日

『her/世界でひとつの彼女』感想

感情と情愛豊かな AIと新鮮な感情を失った男性の恋物語。
OSのデザインや画面、色彩、光などの美しさや綺麗さが印象的な作品でした。

以下ネタバレ満載の感想です。




 主演のホアキン・フェニックスがとにかく巧い! ほぼ一人芝居に近い作品で、ホアキン・フェニックス演じるセオドアに説得力があってこそだなと。見てる側はセオドアを通じて、彼の表情や声や仕草からAIのサマンサを知ることになる。それが見事に表現されていて、セオドアがAIであるサマンサに惹かれ恋し愛していくの過程が違和感なく受け止める事ができました。そこは本当に素晴らしかったと思います。
 対する、AIのサマンサ。声を演じてるスカーレット・ヨハンソンも見事だった! 可愛くて色っぽくて知的で感情豊かでユーモア溢れる「女性」を声だけで表現したのは、本当に素晴らしい。声だけなのに表情や仕草が目に浮かんでくるんですよ...!
 役者陣については素晴らしいの一言です。

 あと、セオドアの職業が代筆業なのも個人的には良かったなと。「新しい感情が生まれない」というセオドアが、優しい豊かな言葉を紡いで他人の気持ちを伝える。そこから生まれる矛盾と切なさは大変好みでした。

 ただ、予告からの想像してたのとは全然違った印象の作品でした。
 一番予想を裏切られたのは、とにかく色っぽい作品だったこと。ただ、その方向が私の好みでなかったのが、なんともすみません...な感じでした^^; もっとプラトニック寄りなのかしら?と思ってたら、意外に露骨でして...。正直、そこまでSEXや肉体に拘るのならAIじゃなくても良かったのでは??と思ってしまって...。
 セオドアが最初にサマンサに惹かれたのって、知性やユーモア、自分を気遣ってくれたり肯定してくれたり背中を押してくれる優しさある言葉や個性だったんじゃないのか? なのに、物語が進むにつれ「肉体があれば」とか「体を繋げることが」に変わってきたのが、正直納得できなくて。勿論、最終的には「サマンサの個性を愛する」ようになっていくが描かれるわけですが...。だったら普通に「人間」でいいんじゃないのかと、これまた思ったりしたんです^^;;

 離婚というある種の人間関係の失敗で感情を喪い人と向き合う事ができなかった人が、無機物のAIと会話を交わしていく中で感情や愛情や人生の美しさ豊かさを取り戻す。そのテーマはわかるんです。彼がユーモアと思いやりある会話の中で、過去を整理して自身の過ちと向き合う過程も分かる。
 けど、やっぱりAIの描き方が納得できないんです。AIが人と繋がることで感情を学んでアップデートしてより「人間らしく」なっていく。そこは理解します。クラウド型であれば学習機会も一気に増えるしデータの蓄積も膨大になる。そこから、最適な対応を選択して「人間らしく振る舞うこと」もできるだろうことは、想像できるし理解できる。だけどね、それと「感情」や肉体が得る「快楽」って違うんじゃないのかと。
 私の中でAIの基準がTNGのデータ君(自立型しかもスタンドアローンという違いがある)なため、偏見があるのと時代遅れな見方なのはわかった上でなんですが...。

 そして何より一番違和感があったのがサマンサの造形でした。あれって、都合の良い且つ理想的な「弱い駄目な僕そのままを愛してくれる」女性像じゃないのかと思ってしまって。辛い時は叱咤激励してくれて、体を繋げる事を積極的に望んでくれて、自分だけを見てくれて、才能を見つけて伸ばしてくれて...。どんだけ甘えてるんだとちょっと苛っとしたりもしました。
 で、それだけしてくれたサマンサにセオドアは何をしたのかと思っちゃうわけです。確かに、サマンサの学習の手助けはした。基本的な感情を教えて育てた。それはAIにとってはすこぶる大きいことなのかもしれない。けど、サマンサは自らセオドア以外のAIや人と対話してそれをずんずん伸ばしたんですよね。となると、種を蒔いたのはセオドアかもしれないけれど、育んだのはサマンサ自身じゃないかと思われて仕方なくて...。う〜んその辺は私の見方がよろしくないのかもしれないとは思ってますです、はい^^;

 最後に、邦題が違うんじゃないかとw 全然、ひとつの彼女じゃなかったじゃないかと^^;
 販売されてるOSという設定だと最後のサマンサの告白は仕方ないよなあぁとか、設定時に「あなたに最適化した」というのはどうなった?!とか色々突っ込みそうになりました。
 サマンサ達が消えたのはもしかするとセオドアみたいにのめり込む人が多くなって、社会的問題になったからなんじゃ...と邪推したりもしたり。

 まぁ色々ごちゃごちゃを連ねましたが、観て損はなかっと思います。オレンジが印象的な映像はホントに美しかったし、大画面でみる価値はあったなぁとは思う作品でした。